- 校長の声
No.60 春の訪れ
■□■ No.60 春の訪れ ■□■
2月のある日、名札のネックストラップが壊れました。分身が逝きました。
2月17日、T君が訪ねて来ました。
卒業を待たずに学校を去ることになった時、初めて校長室で話をしました。T君は前髪で両目を隠したまま一度も顔を上げませんでした。
そのT君が、なぜかその後、資格を取って大学受験を目指すことにした時、大学に合格した時、大学生活の話をしたい時、校長室を訪ねて来てくれました。今回も、前回と同様、アルバイト先のパンケーキを手土産に持って。
自分と同じく学校に登校しにくい子供たちのための学習場所でのボランティア活動がコロナのために中断していること、大学入学当初に取り切れなかった単位を満たすために放送大学でも勉強していることなどを話してくれたあとで「カタリナで高校生活をやり直したい」と言った時、T君が高校での不全感を立派に乗り越えたことを確信すると同時に、私自身の思いとの強い共振を感じました。
今学期始業式の式辞で「この1年の目標をはっきり言葉にしてみよう」と呼びかけた私は、「ちなみに校長は……」と自分のそれを打ち明けました。
「もっと勉強する、特に外国語を。もっと台所に立つ、自炊できるように。もっと歩く、走ることを目指して」
自分の現況を振り返ってごく自然に思いついた目標だったのですが、T君が「今ならやり直せる」と明るい顔を見せながら言った時、私は自分の目標が所謂「老後の定番」(土いじりとか小旅行とか)ではなく、若い時にやり切れなかったことの「やり直し」であることを再確認できたのです。
T君、昔をやり直す気持ちで「今」を生き切り、未来を拓いて行こう!
君は文字通り真っただ中の「青春期」を、私はたった一度だけの、今年の「青い春」を。
今年限り(今春限り)のこの校長室に、まだ寒さが残る中、一足早く春が訪れてくれました。
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