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2019/10/16
  • 校長の声

No.35 坊っちゃんの献身 ―― 戴帽式式辞から ――

戴帽生の皆さん、昨年の入学式で校長が夏目漱石の「坊っちゃん」の話をしたことを覚えていますか。

 (略)

坊っちゃんは中学校の同僚の数学教師・山嵐との会話の中で「僕あ、おやじの死ぬとき一週間ばかり徹夜して看病した事がある」と言います。坊っちゃんは自分に冷たかった父親の最期を親身に看取ってやったのです。そのことを唯一の親友の山嵐にたったこれだけ漏らしました。

東京に帰った坊っちゃんは、最愛の清と二人きりで暮らしたのですが、その生活も僅か数か月だけで清の死を迎えることになります。しかし坊っちゃんは、「気の毒な事に今年の二月肺炎に罹って死んでしまった」としか言いません。坊っちゃんは清が患っている間は、一週間徹夜をした父親のとき以上に心を込めて看病してやったはずです。しかし、坊っちゃんはそのことを一切言いません。一言も漏らしません。

坊っちゃんは、自分の周りの大切な人への看病・看取りを、人間に当たり前のこととして、言葉に表しきれない心を尽くして、まっとうしたのでしょう。その坊っちゃんの献身的な姿が、言葉では書かれていない行間に想像できるかどうかで、「坊っちゃん」という作品の印象は随分変わってくるはずです。

ここで、ナイチンゲールのあの言葉「看護を行う私たちは、“人間とは何か・人はいかに生きるか”をいつも問いただし、研鑽を積んでいく必要がある」を、思い出しましょう。この言葉を知っている皆さんなら、「坊っちゃん」という、無鉄砲な男の笑える話を読みながらでも、「人間とは何か。人はいかに生きるか」という問いかけへの一つの答えに出会うことができるはずです。

ナイチンゲールの言葉の数々は、皆さんのこれからの長い道のりを照らし続けてくれる明かりです。この明かりを見失うことなく、「明日は今日の学びの先へ」少しでも進めるように、日々の務めを誠実に果たしていきましょう。その決意を、今日、ここで、しっかり固めましょう。いよいよ病院実習が始まります。皆さんの、昨日までは違った気持ちでのこれからの研鑽を、大いに期待します。

 

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