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2019/05/29
  • 校長の声

No.30 母へのプレゼント

5月20日、今年度の華道部員が初めて来室。3年生の門田さん・渡部さんと2年生の野本さん・1年生の中矢さんの4人。今回の花材はカーネーションとゴールデンスティックとモンステラ。すらっと伸びた茎とその先の小ぶりな花々がまるで軽快な音楽を奏でているよう。

母の日は過ぎたものの、カーネーションを見た途端に「梶井基次郎のプレゼント」を思った。

梶井基次郎は明治34(1901)年に生まれて昭和7(1932)年に満31歳で早逝した文学青年。残した作品は20編あまりの小品のみ。代表作は「檸檬(れもん)」。

19歳ごろから結核を患う。主に同人誌「青空」に作品を発表。「青空」同人には愛媛県浅海出身の忽那吉之助(後に群馬県立前橋高校長などを歴任)もいた。病気のため東京大学卒業を諦めて故郷へ帰り、最後は大阪で母と暮らした。

死の前年、最後の作品「のんきな患者」が「中央公論」に載り、初めて手にした原稿料で母に金側の時計を買ってやると言ったが「そんなもん要りまへん」と断られ、周囲から敬遠されていた結核患者の自分を母と共に看病してくれていた弟嫁とその姉妹にショールを買ってやった。

幼稚園の保母をしていたこともある母は、子への最後の愛情を克明な看護日誌に書きとどめた。短い生涯の最期を母子二人で過ごす時間は、たとえどんなに短くても、たとえどんなに神経をすり減らすものであっても、母にとっては金側の時計以上の貴重なプレゼントであっただろう。それは、母が子に無償の愛情を贈与することを可能にする、母への文字通り懸命の(命がけの)返礼でもあっただろう。

 (ショールの写真と説明は『新潮日本文学アルバム27梶井基次郎』から)

 

 

  

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